2020年04月01日

【論評】 犬塚元「ケンブリッジ学派以後の政治思想史方法論──思想史と因果分析・実証主義」(『思想』第1143号、2019年7月)。

 因果的推論の論理に思想史研究も従うべきか。思想史研究の方法論や現代的意義に疑念が持たれる今日の状況の中、本論文は、(1)因果分析をめぐる方法論論争と政治思想史の方法論との関連の解明、(2)日本における政治思想史方法論の20年間の知の空白の解消という二つの課題に取り組んでいる。(1)については、ケンブリッジ学派のスキナーの思想史方法論が、もともと実証主義ではなかったことを指摘し、異なった時代の問題意識を投影して過去のテクストを読む時代錯誤を批判していたことにとどまらず、テクストの意味が社会的文脈・社会構造に還元できるとするコンテクスト還元主義を批判していたことを指摘する。(2)については、ビーヴァーとブローの議論を紹介しながら、知の確実性が懐疑にさらされるなか、ポストスキナー世代が、より妥当なテクスト解釈はいかにして可能かという課題にとりくんでいることを紹介している。そのうえで著者は、研究評価の基準の方法論を明確化するため、推論手続きの妥当性に注目するブローの方向性がひとつの選択肢になりうると論じている。また、思想史研究の意味については、「応用政治思想史」の方法論の整備という課題を提起している。
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posted by 主催者 at 11:26| Comment(0) | 鎌田厚志