2022年04月16日

OKAZAKI Seiki: An Institutional Design for PR-LMB

岡ア晴輝「"An Institutional Design for Proportional Representation with a Limited Majority Bonus" について」、九州大学政治研究会、2022年4月16日。

 本日は、拙稿【リンク】の合評会という貴重な機会を与えていただき、ありがとうございます。本論文は、多数派限定優遇の比例代表制に関する第一論文(『法政研究』第85巻第3・4号、2019年3月)と第二論文(『政治研究』第68号、2021年3月)に続く第三論文であり、多数派限定優遇の比例代表制の制度設計に取り組んだ論文という位置づけになります。なお、2022年度は、多数派限定優遇の合憲性を検討する第四論文を執筆する予定です。
 第三論文の概要を説明する前に、『政治研究』に英語で書くことの意義について一言述べておきます。英語論文を書くのは容易ではないのですが、同じ関心を持って研究している海外の研究者と情報交換・意見交換するためには欠かせません。また『政治研究』は、「型」にはめられずに比較的自由に書くことができるという点でも、九州大学リポジトリで無償公開できるという点でも、たいへん助かっています。幸い、複数のドイツ人研究者が関心を寄せてくれており(ドイツでは連立交渉問題を背景に多数派優遇論争が起こっています)、有意義な情報交換・意見交換ができています。ちなみに、フランス大統領候補のマリーヌ・ルペンも4月12日(火)の記者会見において、多数派優遇の比例代表制への改革を明言しました(国民議会の2/3の議席を比例代表で配分する一方で、残る1/3の議席をすべて第一党に配分する制度であり、実際には比例代表制というよりも多数代表制です)。多数派優遇は、別の政治的文脈においてですが、フランスにも飛び火するかもしれません。
 前置きはこれくらいにして、本論文の概要をごく簡単に説明します。主たる論旨は、多数派限定優遇の比例代表制の制度設計としては、全国単位の複合拘束名簿式が望ましいというものです。
 第1節では、日本の比例代表制論者が高く評価してきた選好名簿式(非拘束名簿式を含む)や小選挙区比例代表併用制を批判しました。まず、自由名簿式(スイス)・非拘束名簿式(フィンランド、参議院)・半拘束名簿式(ベルギー)といった選好名簿式比例代表制では、有権者の情報コストが過大であり、多くの有権者が政党に一任する政党票を投じるため、実際には、大規模な利益集団を支持基盤とする候補者に議席が占められやすくなります。それゆえ、有権者は形式的にはともかく実質的には候補者を選択できているとは言えません。加えて選好名簿式は、以下のような様々な問題を抱えています。候補者は選挙区活動に時間や労力を割かなければならいため、政策形成が疎かになりやすいこと。党内で競争しなければならないため、チームとしての力が弱まりやすいこと。政党にとって不可欠の「縁の下の力持ち」型の候補者が当選しにくいことです。次に、小選挙区比例代表併用制(ドイツ)は、選好名簿式に比べて幾つかの長所があるとされていますが、幾つかの短所を抱えていることも否定できません。第一に、有権者と候補者の距離が近いとされていますが、距離が近いのは一部の有権者です。第二に、重複立候補制を採用する場合、多数派限定優遇の比例代表制では、小選挙区で落選した候補者のほとんどが比例代表で復活当選することになります。第三に、選挙区活動に時間や労力を費やさなければならず、政策活動に従事することが難しくなります。――このように考えると、強いチーム(バランスがよくコミュニケーションもよい)を組織するためには、選好名簿式比例代表制や小選挙区比例代表併用制ではなく、全国単位の拘束名簿式比例代表制のほうが望ましいとしました。
 第2節では、全国単位の拘束名簿式比例代表制にたいして向けられるであろう幾つかの批判を検討し、それを通じて制度の改良を重ねました。第一に、拘束名簿式では「候補者の順位付けが難しい」という批判にたいしては、候補者名簿を複合化(政策部門順位×候補者順位)することで対処できることを示しました。加えて、各部門の一位が二位の者を指名し、二位(と一位)が三位を指名するという党内手続きも示しました。第二に、拘束名簿式では「有権者が候補者を選択できない」という批判にたいしては、抽選制市民院による解職制度を提案しました。間接的(・事後的)にではあっても、有権者が候補者を選択できることになります。加えて、男性中心の候補者名簿と女性中心の候補者名簿を提出することを義務づければ、有権者が直接、候補者集団を選択できることも示しました。これはジェンダー平等に寄与するだけでなく、評判の悪い候補者を名簿に載せないインセンティブにもなるはずです。第三に、全国単位では「議員と有権者の距離が遠くなる」という批判にたいしては、抽選制市民会議に議員が参加する仕組みを提案しました。選挙区活動とは違い、様々な有権者とじっくりと話すことができるため、かえって望ましいのではないでしょうか。
 第3節では、選挙制度を補完する制度として、政党助成金の反比例配分という構想を提示しました。候補者を政党職員として雇用すれば、拘束名簿式にたいする不満を緩和することができるはずです。お金がかかるという批判がありえますが、多数派限定優遇の比例代表制では落選議員の数は限られています。また、選挙区活動費用が不要になるため、候補者を雇用する金銭的余裕も生まれます。加えて、政党助成金を反比例的に配分すれば、落選議員を政党職員として雇用しやすくなります。与党に55パーセント、野党に45パーセントの議席を配分するのとは反対に、与党に45パーセント、野党に55パーセントの政党助成金を配分する。こうすれば、落選議員を雇用しやすくなるだけでなく、幅広い層から候補者をリクルートしやすくなるとともに、複合拘束名簿式にたいする不満を緩和することもできるようになります。また、マスメディアへの露出が圧倒的に少ない野党が広報等に力を注ぐことができるため、与野党間の対等な競争条件を整備することもできるようになります。
 以上が論文の概要になります。今回の第三論文も第一論文や第二論文とともに日本語訳して、研究書に組み込む予定です。2022年度に研究書の原稿を書き上げて出版契約を結んだ後、2023年度に丁寧に推敲・校正し、2024年度春に満を持して研究書を公刊したいと考えています。本日のご批判・ご助言を踏まえて、研究書に組み込む際に議論を深めたいと考えていますので、忌憚のないご批判・ご助言をよろしくお願いします。
posted by 主催者 at 23:59| Comment(0) | 岡ア晴輝
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。